落語のごくらく

落語の台本を吹き出し💬式で書いています。

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落語【掛け取り】借金取りから取り立てを延長・借金完済する方法とは?

 


落語では、貧乏長屋は何度も出てくるお馴染のことでございまして…

 

この貧乏長屋が暮れを迎えますと、借金取りに追われる家ばかりでございますけども...

 
どうするんだよお前さん!
もう今日は大晦日なんだからぁ!後から後から借金とりが来るのにあたしだって言い訳の台詞に困るよ!?
ん~...去年と同じ手で追っ払おうじゃねぇか...
なんだい去年の手って...
お前さんが死んだふりするあれかい?
もう懲りたよ去年...
お前さん?どうしても勘定が追いつかないから、いよいよ夜逃げかね?
まあ待てよ...俺に考えがあるから!
 

表にぴゅ~っと飛び出していったから、どこかでお金の工面でもしてくれんのかと思ったら大きな棺桶ひとつ背負って帰って来た...

 
どうすんのお前さん、こんなもの...
おれがこの中入って死んだふりしてるから、借金取りが来たら
「この通り亭主が死にましたんで借金払えません!」
そう言って脇で泣いてろ!
泣けるわけないだろ!こんなもの...
去年はみんな来てくれてお悔み言ってくれてんだもの、あたしだってゲラゲラ笑うわけにもいかないから...
湯呑にお茶を注いでおいて、人が来るたびお茶で目のふち濡らして泣いた真似してたの!
そしたら、ほら金さんが来た時こう言ったよ?
おかみさん?目からお茶殻が出てるよ?って...
あんな情けない思いをしたことはないよ?
大家さんの時覚えてるかい?あの人のいい大家さん!本気にしちゃって!
「あぁ、お前も気の毒になったなぁ...これは少しだけど」
って御香典出されて...
大家さん店賃も払えません、借金もあるのに...
「まあいいじゃないか...借金は借金、香典は香典!」
いえ、そうはいきません...どうぞそちらへお納めを...
「いいからとっておきな!」
いいえダメです!
「まあまあ!」
って押し問答してたらどうしたよお前さん!?
せっかくだからもらっとけぇ!って手ぇ出したろ?
まあ大家さんの驚いたこと...きゃあぁ!って言ってた、かわいそうだよあんなことしちゃあ...
どうすんの!?
うるせぇなぁ!どうするどうするって...
借金取りだってな?みんな人それぞれ好きなものがある...
好きな物には心を奪われるって例えがあるんだ...な?
おれが借金取りの好きな物で、うまい具合にとーんと断っちゃうよ!
そんなうまい具合にいくかい?
おう!任しておけよ!
あ!早速来たよ!?
誰だい?
大家さん!
家主は何が好きだよ?
あだ名が「狂歌家主」ってぐらいだから...狂歌が好きだよ
あぁあぁ...狂歌な...
じゃあお前ちょっとな、押し入れ入ってな
こんばんは...
ハチ公や!
はーい!おや!どうも大家さんご苦労様!そこじゃなんですから、どうぞ!こちらへお入りください!
今お茶入れますから!
あぁいい、いい!構わないでおくれよ
今年は死んだふりはしてねぇようだな...
お前も忙しいだろうがあたしも長屋まわなきゃいけない...店賃が四つたまってんの!
払っておくれよ!
はぁ~四つですかぁ、いの一番に払わなきゃいけないと思いながらね?良からぬもんに凝っちゃってねぇ...
あっしは狂歌に凝っちゃった!
へっ...あたしが好きだからそんなことを言えば勘弁してもらえるもんだと思って...
そんな手にあたしは乗らない!
いや本当に凝ったんですよ!やってみると面白いもんだねぇあの狂歌ってのは!
ほぉ...お前が本当に狂歌に凝ったんならあたしも嬉しいが...
じゃあ嘘じゃない証拠に、作った狂歌披露してみな?
そうですか!こないだ出来ましたのはね?「貧乏」という題で作りました!
貧乏を すれば悔しや 裾綿の 下から出ても人に踏まるる
はぁ~...貧乏の哀しさがよく出たな~
そういうのは本当に貧乏したことがない奴には分からないことだ
貧乏を しても下屋の 長者町 上野の鐘の 唸る音を聞く
はぁ~鐘の唸る!?うんうん、威勢がいいな
貧乏を すれどこの屋に 風情あり 質の流れに 借金の山
山水だねおい...いい眺めだなぁ、質の流れに借金の山...こうなると貧乏も風流だな
貧乏を!
お前貧乏ばっかりだな...
少し貧乏を離れてやろう...
じゃああたしもやろう...
貸しはやる 借りは取られる 世の中に 何とて大家つれなかるらんと...
女房喜べ!狂歌がお役に立ったわやいと...
はっはっは!菅原もどきでお前が言い訳をするんなら、私もいつまでも時平事を言うのは止めにして
来年の桜丸の散る時分まで、待つ(松)こととしてやろう...
そうですか...じゃあその頃までに勘定は埋め(梅)るようにしますんで!
ありがとうございます!
ごめんください
さようなら~
おっかぁ?大家さん帰ってたよ?
お前さん好きな物で返すってこういうこと?
へぇ~器用だったねぇ...!
よくあんなことすらすら言えたねぇ!どこで覚えたの!?
うん...寄席行くと噺家があれやるからな
落語ってのはためになるんだねぇ...
そうだろ...寄席はどんどん通わなくちゃなぁ...
あっお前さんまた来たよ?
誰だい?
魚屋さん!
魚屋?あいつは何が好きだい?
喧嘩...
喧嘩はまずいよお前...
厄介な奴が来ちゃったなぁ、お前そこに薪の太いのがあるだろ?
いいんだいいんだ、心配するな、形にならなくちゃいけねぇんだ...手ぬぐいも放ってくれ?あいよ!
こいつでねじり鉢巻きだ!さぁ、お前は押し入れ押し入れ!
何があっても出るんじゃねぇぞ?お前が出ると仕事がしにくいからな...
こんばんはぁ!はっつぁんいるかい!?
誰だい!?
よぉ!おれだい!
魚屋だなこの野郎...ふてぇ野郎だ!話があるからこっちへ入れ!
威勢がいいな、ねじり鉢巻きして...
お前んとこの勘定は長すぎるよ?いい加減にしてくれよ...
こっちだって大晦日だ!わずかな勘定貯めて年を越したらお前も気分が悪いだろ?
払ってもらうよ!?
借りがあるから払いてぇと言いたいところなんだがな、銭がねぇんだよ...
しょうがねぇよ、ねぇ袖は振れねぇってことがある...
今お前もそう言ったろ?勘定はわずかだって...
わずかな勘定取っていけたってしょうがねぇ...
四の五の言わずにとっとと帰れ!
なんだとこの野郎!
お?ケツまくったな?
当たり前だ!勘定はわずかだとぉ?四の五の言わずに帰れだぁ?
おう!お前がそんなこと言うならな!今日は勘定取るまで一寸も動かねぇからそう思えよ!
ほう...勘定取るまで一寸も動かねぇ...
よしっ...じゃあお前はそのつもりだろう...
おれはな、お前に勘定をやるまでは、ここを一寸どころか五分も動かさねぇからそう思えよ?
いつになるかなぁ...半年先か一年先か...
・・・
動かねぇで待ってろよ?
もし一寸でも動いたら、この薪がお前の血を吸うからな?
お前、じょ、冗談はよそうよ...
な?気は心、半分でもいいから頼むよぉ~!
おれ今二、三軒廻って来てあとでまた来るからさ、頼むよ?
この野郎ちくしょう!動いたなぁ!
うわぁ!ちょ、ちょっと!危ないよ、そんなもの振り回してお前!
そりゃ動くよ生きてんだから!でもまた戻ってくるんだ!
戻って来るかどうかなんて知らねぇ!おめぇは勘定を取るまで、そこを一寸も動かねぇ!
男がいっぺん外に出した言葉だ...曲げちゃ困るよ?
お前がそういういい加減な奴じゃねぇってことはおれはよく知ってんだよ...
でも...そうやって動くところを見ると...
勘定取ったのか?
いや取らないよ?
そうだろ?だったらずっとそこにいろよ...
うちはな、夫婦で食うのがやっとだからお前に食わせるもんはねぇんだよ...
でも知らねぇ仲じゃねぇから、干からびたら骨ぐらい拾っといてやらぁ!
ずっとそこにいろ!
正気かおめぇは!
ちくしょう...いいよ!面倒くせぇ!一軒夜逃げくらったと思って諦めるよ...
もらったことにしといてやるよ!
なんだいその言い方は...勘定を取ったのか、取らねぇのか!!
もらった!!
もらったじゃいけねぇ、受け取り出せよ!
う、受け取り...ちくしょう...まぁほんとに...
ほらぁ!もってけ!
なんだい、つっけんどんに...
よ~し!これで払ったな?
もらったよぉ!
どうしてそう愛嬌がねぇんだよぉ...
商売人ならニッコリ笑って礼を言え!
いい加減にしろよ!この上おれが礼を言えるか、言えねぇか!
あぁ言わねぇ?言わねぇならいいよ?こんなもん引っ込めとけ...
その代わり動くなよぉ!
五年でも十年でも!
分かったよぉ...言う!礼を言う!
毎度ありがとうございましたぁ!
なんだお前...獅子頭みてぇな顔してやがる
ん~っといくらの勘定だ?
ひと月6円30銭なり
はっはっは!やっすい勘定だなぁ!ためとかねぇでちょくちょく取りに来いよぉ!おい!
おい!魚屋!しらばっくれて帰ろうったってそうはいかねぇぞ!?
今やったのは十円札だ!お釣りくれ!
いいかげんにしろこの野郎!
 

掛け取りというお話でございました...

 

 

 

落語掛け取りとは

 

借金のことを掛けと言いますが、それを取る人と言う意味で「掛け取り(借金取り)」という題がつけられています。

 

長屋の貧乏人が自分の喋りだけで、お金の返済や完済を決めてしまうのは見ていてとても痛快です。後半の魚屋さんとは、立場が逆転していますからね。

 

いくら受け取りの書面があったからと言って、法的拘束力や現代で言うブラックリストに入ってクレジットカードが使えなくなるみたいな制限もないので、本当の意味で人と人との信頼の上で、お金のやり取りがあったと言えます。

 

ところで、この落語の中で最初の方に出てきた「狂歌」の所、意味が分かりましたか?

 

私は、この記事を書きながら「狂歌」という言葉を初めて聞いたので、「俳句とどう違うの?」と思いました。

 

調べてみると、社会風刺や皮肉、滑稽を盛り込み、五・七・五・七・七の音で構成した諧謔形式の短歌(和歌)(Wikipedia参照)らしいです。

 

私自身も書きながらあまりよく理解出来なかったのですが、大家の「貸しはやる 借りは取られる 世の中に何とて大家つれなかるらん」という狂歌は、歌舞伎の『菅原伝授手習鑑』に登場する「梅は飛び桜は枯るる 世の中に何とて松のつれなかるらん」のパロディで、そこから桜丸や松の話が出て来たのではないかと推測します。

 

(知っている方がいらっしゃれば教えていただきたいです。)

 

 

 

 

掛け取りを聞きたい方へ

 

春風亭柳朝(5代目)(4)

春風亭柳朝(5代目)(4)

 

 

 

 

掛け取り(09.08.14/上野・鈴本演芸場)

掛け取り(09.08.14/上野・鈴本演芸場)

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