あなたに1日1つの『小さな』学びを。

落語によるひと笑いと普段感じている笑えないことを発信していきます

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女遊びを知らないあなたが嘘をつかれたくなる落語【明烏】


男子に生まれてご婦人が嫌いな方はおりませんな・・・

 

それは人によってただ色々と度合いが違いまして・・

 

まあまあなんて人もいれば嫌いだよ!なんという人もいますが、好きな人になるととことん好きな人もいますな・・

 

「もう~俺は女は好きだね!世の中で女以外に好きなものはないよ!ん~俺が女になりてえくれえだ!」

 

何て訳の分からないことを言う人もいます・・

 

女になりたい女になりたいと思ってるうちにおかしくなってきまして、しまいには、

 

あたし男が欲しい・・

 

なんてことになるとこれはもう末期ですな・・

 

まあ男に生まれるってとご婦人が好きでございまして。

 

昔はそれこそご婦人が男が来るのを待っていてくれるというような場所もありまして、年頃になるってと

 

「あそこの若えやつも連れて行こうじゃねえか」

 

ってんで遊びに連れてってくれる。

 

ですからもう否が応でもそういう経験というものをちゃんとみんな持ったもんだそうです・・

 

・・・羨ましいですな・・

 

まあしかしどんな世の中であっても

 

どうも私はそういうところは・・

 

というようなごく堅い人がいたんだそうですな・・

本当にあたしから見ると不思議だなと思うんですけども・・

 

 

             

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ばあさん!どこいったんだい倅は?遊びに行っ・・

そうじゃない? ちょっと頭が痛えから休んでくるって?

 

 

しょうがないねえ・・また本読んでやがるんだから・・

本読むのは別に悪くはないけども・・・

 

 

別に良くもないよ・・

 

 

だってそうじゃないか!

年頃の男がだよ?外に遊びに行かないで家にいて

本ばかり 読んでるんだから・・

 

 

若い時分には威勢というものがなくちゃいけねえもの!

 

 

 

 

あのくらいの年頃くらいはね、 じっとしてられないもんだよ?あたしなんてのべつ出歩いてたよ?

 

 

よくずっと本なんか読んでられるもんだよ・・・ なんだかんだって商人(あきんど)なんだからたまには羽目を外してもらわなくちゃいけねえよ?

 

 

え?堅くていいじゃないかって?

 

 

堅いのはいいよ!

確かにいいけどもあいつの場合は 少し硬すぎるんだよ・・

 

 

 

 

あんなことじゃひと様が付き合ってくれねえじゃねえか!人付き合いができなきゃ商人はおしまいだよ!

 

 

少しくらい遊びに行ってくれりゃあいいんだが・・・何?

 

 

別に悪くしようってんじゃないんだよ!

分からねえなばあさんは!・・・

本当に喧嘩してる場合じゃないよ!

 

 

堅物が帰って来ましたよ・・・

そこにいるのは誰だい?時次郎かい?

 

 

あっどうもおとっつあん、おっかさん、ただいま帰りました、 遅くなりまして申し訳ございません・・・

 

 

 

いやいやそんなことは構わないんだよ、どこ行ってきたんだい?

 

 

あの~ちょっと本を読みすぎまして頭が痛くなりましたので表をぶらっと出ましたところ、

今日お稲荷さんが初午でございまして町内の皆さん方が集まっていらっしゃいました・・・

 

 

あたくしがまいりましたところ、若旦那御酒はいかがです?と言って下すったんですが、

あたくし飲みませんとお断りをしましたところ、

それじゃあおこわはいかがですか?

と お赤飯を勧めていただきました・・・

 

 

大変においしく炊けておりましたので、三杯おかわりを させていただきまして、

すぐに帰ろうとしましたところ子供たちが一緒に遊んで とせがむもんですから子供たちと一緒に太鼓を叩いて遊んでおりまして遅くなりまして 申し訳ございません・・・

 

 

いい若えもんのすることじゃないよ!!

お前さんそういうことをしてちゃいけませんよ!

ちょいと御酒をいただいて!

ちょいとねぇ、ちょいと形をとればいいんだよ!

三杯おかわりをして子供と一緒に 太鼓を叩いてるようじゃいけませんよ!

いやいけないったってね、いや何て言うのかな・・・

おとっつあん小言を言うんじゃありませんからね?

そのつもりで聞いとくれ? いいかい?

ええ~っとね・・お前さんね!

頭が痛くなるほど本を読んじゃあいけません・・・

読むのは結構ですよ?

結構だけれどもなんでも程にしておかなくちゃいけねえ・・・

学問てのは本当にそりゃあ・・・した方がいいんだよ?

した方がいいんだけれども・・・

お前は別に学者になるんじゃないんだよ?ね?

おとっつあんの後を継いでこの屋の主になるんですよ?

商人なんだ、商人に学問はいらないんですよ?

それより商人には商人なりの学問てのがあるんですから・・・

どういうことかってとね?

例えばこれからお前さんがあたしがいなくなった後、色んな方とお付き合いをするでしょ?

そん時にただ金魚のフンのように ひと様の後をのそのそのそのそついて歩いているようじゃダメなんですよ?

ね?

商いの切っ先というものが鈍ります、

たまにはこちらの方から恐れ入りますが あたしの方にちょいとお付き合いくださいませんか?

ってんでどこかへ 誘うようじゃないといけませんよ?

それには自分の馴染の店ってのをこしらえておきなさい・・・

どこそこの芸者はどういう芸がうまいとかあの家ではこういうものを食べさせるだとかね、

あっちこっちへ早い話がお前の行きつけのところをちゃあんとこしらえて おかなくちゃいけねえ・・・

それには家にばかりこもってちゃいけませんよ?

馴染になるには何度も行って向こうと顔馴染みになる・・・

それが大変なことなんだから!

自分の目で色んなものを見ていろんな話をする!

これがお前さん大変な学問になるんだから! いいかい?

これから本を読むのも結構だけれども、ちょくちょく表へ出て遊ぶように しなくちゃいけませんよ?

分かりました・・・それでしたらちょうどいいお話がございます・・・

実は今角のところで源平さんと田助さんに会いましたところ、これからお稲荷さんにお参り行くんだけれども、一緒に行かないか?

と誘われたんです・・・

行ってよろしゅうございましょうか?

 

え?源平と田助に会ったの?

おお!そうかそうか!いやいや聞いてますよ!

何か最近いやに二人がこってるんだそうだ!

そうかい! お稲荷様へ?結構じゃないか!

行ってきなさい行ってきなさい!

それで・・ど、どこのお稲荷様へ行くって言ってたい?

え~と浅草の観音様の裏の方に大変にありがたいお稲荷様があるんだそうで・・

 

・・・ありますよありますよ!!あそこは日本一だよ!?

おお~!おとっつあんなんか若い時分には日参したもんだ!

ちょいとお参りが過ぎてお前のおじいさんに怒られたこともあったが・・

いや結構結構!あっ、そうだお前ねえ今日初めてだから、ひとつ御籠りをしてきたらどうだい?

え、しかしお二人が何というか・・・

 

いやいや大丈夫だ信心深いお二人だ必ず付き合ってくれますよ! 行ってくるがいい!

ええそうですか、それでは定吉に布団の準備を・・・

 

ああそんなことはいいんだ向こうに全部揃っているんだからお前さん身一つで行けばいい・・・

ただな!その身なりがいけません!

ちょいとそのなりを変えなさい・・・

なりが悪いってとあのお稲荷さん御利益が薄いってからな・・・

ばあさん!何か出してやっとくれ!・・・何!?

悪いようにはしないって言ったろ?

お前ばかりの倅じゃないんだ!大丈夫だから!

うん・・・あんまり派手で着物でなくてね、 地味なので一つ頼むよ!かえって地味な方がいいんだ・・・

渋くって堅いもんの方がね・・・うん・・・

紋付に袴にしますかって?馬鹿野郎!

何しに行くんだと思ってるんだよ・・・何?

そうそうそういうのだよ! それからねお賽銭!

たっぷり持たしてやっとくれ・・・

お賽銭がすくないってとご利益が薄いから・・・

後はまあ万事あの二人に任せておけばいいんだが・・・

途中でね? 途中で中継ぎをなさると思う・・・

中継ぎというのはどっかのお店に入って軽く一杯 召し上がるってぇやつだな!

お酒でございますか?お酒はあたくしいただけませんから・・・

あの~お二人が召し上がるまで表で待っております・・・

 

それがいけないんだよ・・・え?

なんでも世の中付き合いというものが肝心ですよ?

どこへでも一緒に行きなさい!!

お前だっていくら飲めないったっておちょこに一杯は 飲めるでしょう?

で、後はいくら注されてもみんな飲んだふりをして、 杯洗の中へ入れてしまえばいいんだからな?

それからね、途中で手を叩いてお会計なんてこれはもう野暮の極みだからね?

お前さんが憚り(便所)へ行くふりをして裏のはしごをとんとんとんと降りて行って、 下のお帳場でもって三人分の勘定をいってに済ませちゃうんだ!

じゃあ帳面につけておいて後から割り前をいただくんですね!

 

そんなことしちゃいけませんよ!ええ?

相手は町内の札付きだ、後が怖いよ!?

まあ後は二人言うことを聞いてれば間違いないからね?すぐに支度をして出かけなさい!

 

(場面が代わって)

おい!行こうよ!来やしないよ!

冗談言っちゃ・・来ないからさぁ!考えて見ねえな!

どこの世の中にだよ?

てめえの倅を遊びに連れて行ってくれって人に頼む親がいるんだよ!?

いるんだよ!?っているんだよ!

お前は知らないんだ・・・あそこのねえ日向屋の旦那を・・・

粋な人なんだ!こないだ会ったんだけどね?

うちの倅にも困ったもんだってそう言うから、 何があったんです?

堅くて結構じゃないですか?

って言ったら堅すぎるってんだ・・・ ねえ!

あれじゃ人様が付き合ってくれないからこれから先が思いやられるって・・・

俺ぁしみじみ思ったねぇ!親なんかなるもんじゃねえって!

だってそうだろ? 子が堅いと言っちゃあ心配する・・・

柔らかいと言っちゃ何か考え混んじまう・・・

あ~もうあたしは生涯倅でいようと思ったよ?

だからあたしはねえもう倅ができたらねえそれこそ倅をね、親父にしちゃおう思ってね!

本当に!ねえ!

自分で誘うわけにはいかねえからお前さん誘ってみておくれよって こういうんだよ・・・

そんな堅いぼっちゃん誘ってみたって行きゃあしないでしょ?

って言ったらそこらへんはひとつ信心にかこつけて誘い出してくれれば、

きっと行くだろうから誘ってやってくれよ!ってこう言うから・・・

だから今ねおとっつあんの方から出してよこすから絶対に来るんだよ!

大丈夫だよ!おめえはちょいと気が短えんだから!

堅物を連れて行くのがまた 面白いんだから!

あっ!ほらほらほら出てきた出てきた・・・ 探してるよ・・・もし!

ぼっちゃん!ここですよ!ここですよ!

 

どうもあいすいません・・・

すぐに出てこようと思ったのですが、親父がなりが悪いと御利益が薄いと申しましたので着替えておりまして遅くなりました・・・ あいすいません・・・

おお・・そうですか・・なりが悪いと御利益が薄いとよ・・・ 俺たちゃご利益薄いぞこりゃあ・・・

いいなりでございますねえ! 大変なご利益で!

 

あの~それからあの今日お前は初めてだから御籠り(お泊り)をしてこいと言われたのですが、 いかがでございましょう?

お付き合い願いますでしょうか?

へ?ほほ!そうでございますか!御籠りを!?

おい聞いたかい?粋なおとっつあん じゃねえか・・・

これだよ!ねえ結構だねえ!

しばらくここんとこ御籠りしてねえからな!

ええ結構でございます!是非ともひとつ!

そういうことで御籠りをお付き合いいたしますので!

 

ありがとうございます・・・

それであなた方後で中継ぎをなさいますか?

え?中継ぎなんて言葉よく知ってますな!

ええ・・・中継ぎ・・・ ちょいと道中どこかへ寄って一杯・・・

 

いや~あたくし、なんでございます・・・

お酒はいただけないんですけれども、

大変に世の中というものは付き合いが大事だと思うのですが、 注されましたらおちょこ一杯はいただきたいと思います・・・

あとはいくら注されても飲んだふりをして杯洗の中へあけてしまいます・・・

そんなもったいないことしなくていいよ!

飲み手はちゃんといるんですから!ねえ?

そんなことは気にしなくても・・・

ちゃんと召し上がり方もありますよ!

下戸の方は 下戸の方なりのね・・・

そんなもったいないことをしちゃあいけません・・

 

それから途中で手を叩いてお会計なんてことは真に野暮の極みでございますので、

あたくしが憚りへ行くようなふりをして裏のはしごを降りてってあのお帳場で三人分の お勘定を一手に済ましてしまいますので・・・

・・ふふ・・あはは!

おとっつあんに言われたことをそのまま言ってんだよ・・・

いいねえこういうところがさ!へへ!

冗談言っちゃあいけませんよ!ぼっちゃん!

つまんねえこと気にしちゃいけません!

はばかりながら源平と田助がついてるんですから! 安心して下せえ!

 

冗談言っちゃあいけません!あなた方町内の札付きだ!後が怖い!

こりゃあ驚いたなあ・・・お、怒んなさんな!怒んなさんな!いいじゃねえか!田助さん怒っちゃあいけませんよ!

おとっつあんが出してもらおうとして一応こっちを悪者なんかにしたりしたんだろうよ!

気にしちゃいけませんよ!

ええ結構ですよ!ぼっちゃん!じゃあひとつ参りましょうか!

 

なんてんで、てめえの懐が傷まないとなると何を言われても腹は立てません・・・

 

三人でそこらへんの店へあがってしばらくの間やってる・・

 

日の暮方になるってと店を出ます・・・

 

 

三人ともぽ~っとしたような顔をしまして、 もうすっかり吉原へ向かいます・・

 

 

その時分の吉原道は雑踏というもの・・・

 

 

宵の口大変だったそうですな・・・

 

 

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はぁ・・・随分と人様が参りますがこれは皆さんお稲荷様へ参るんでございますか?

 

ええ!みんなお稲荷様でございますよ!

あっそうでございますか・・みなさん御籠りの方でございますか?

 

いや御籠りの方に限っちゃあいませんよ、

お参りする方もあれば、中には御籠りでも なくお参りでもなく、ただウロウロっとして後は帰るなんて言う人もいますがね・・

ああそうですか・・・あっあそこに柳の木がたってますが・・・

 

ええ、これはね見返り柳といってね・・・誰でも知っていますよ・・・

そうですか・・・もしお二人とはぐれましたらあたくしあの柳の木のところに 立ってますので・・・

 

幽霊だよそれじゃあ・・・

さっ!着きましたよ!これが大門というやつだ!

さあ参りましょう!

・・・さあどうです?

はあああ・・・大変な賑わいでございますがこれは・・・

ん?何やら三味線や太鼓の音が聞こえますが・・・

 

ああ、ああやってね?

お稲荷様が寂しがるのでね、お慰めしてるんですよ!

はあそうですか・・・

大層変わったお稲荷様でございますね・・・

 

ええそりゃもうね、ここだけしかありませんよ!

まあ後は品川とか・・・

(田助)余計なことを言うんじゃないよ!・・・

すいません・・・お稲荷様に行く前にお手洗いに行ってもよろしいですか?不浄なものはすべて捨ててこようと思いまして・・・

(源平)え?なんです?憚り(便所)ですか?

憚りはあそこにございますよ!ええ!

汚いですからな!着物を汚さないようにしてください!

ここで待ってますよ!へい!

どうも・・・

なるほどこりゃあおとっつあん考え混んじまうよ・・・

えぇ?ここまで堅くなくたっていいじゃねえか!

ねえ! 大概のもんならここへ入ってくるとね、もう分かるもんなんだよ・・

未だにお稲荷様だと思ってるんだから・・・

面白えじゃねえか・・・

店に上がればしまいには現れちまうけどさ、

何とかひとつね、せめて茶屋ぐらいまでは ごまかしたいじゃねえか・・

お前ね、ここで待ってろ・・・あの堅物を連れてきとくれ・・・

あたしはね先にね、茶屋に乗り込んでってうまい具合に女将に吹き込んでおくから・・・

いいかい?あの堅物をね?お巫女の家とかなんとか言って連れてきなさいよ?頼むよ?

こんばんは!

 

は~い!あらぁまあお珍しいじゃございませんか!

どうなすったんですか? ちっともお見えにならないで!

脇で馬鹿なことしてたってお伺い・・

いやそうじゃねえんだよ女将!

ちょいと野暮用続きで来られなかったの!

本当だよ!脇で遊んでるようなことはしてませんよ!?

そんなことより女将・・一つ頼みがあってね・・

 

そうですか?なんでしょうねえ?

ちょいと怖いですねえ・・

う~んと実はねちょいと耳を貸してもらいたい・・

 

そうですか?どっちのです?

どっちだっていいんだよ・・・実はね・・・

 

はい・・・はい・・・へえへえ・・・はい・・・伺ってました・・・

はい・・・へえ~!へえへえへえ!

あ~はいはいはい~・・・ん~はい・・へえええ!!

へえへえ・・・

おいちゃんと聞いてんのかい!?

 

聞いてますよ・・・わかってます・・・

ですからその堅い方がいらしたことは伺ってました・・

はい、その方が?お、お見えになる!?

そうですか、まあ~よくお見えになりましたね・・・

何ですか?お稲荷様へ!?

御籠りに行くと偽って!?

あら~悪いことをするじゃあありませんか!

そうですか!まあ大変なところに御籠りでございますねえ!

それでここがお巫女のお家ということで?

はあ・・・そうですね・・・あはははっ!ここがお巫女の家だとさ!

まあ~!それであたしがお巫女頭?

・・・そんなのあるんでしょうかねえ?

まあ・・・でもあたくしだめですよ?そういうのはもういえ芝居っ気がまるでないんですから・・・

芝居をしているだけでもってすぐ分かってしまうんですから・・・

いいんだよ!分かっても!知られたって別にどうってことはねえんだ! 頼むよ!遊びにやるんだから!

おっ・・・来たよ来たよ・・・いいかい?いいね! お巫女頭だよ!?いいね?

・・・もし!!ぼっちゃん!若旦那!!どうぞお入んなさい!

 
あっ!あんなところでもって源平さんが呼んでます!この家は何なんでございます?
ああ・・・ここはねえ・・・お巫女のお家なんでございますよ!お入りください!
そうですか・・・ちょっとごめん下さいまし・・・
さあさあさあ!!こっちへお入りなさい!まあまあまあこっちへお入りなさい! ぼっちゃんあのねえ!ここがね?お巫女のお家なんですよ!
で、あちらにいらっしゃるのがね?お巫女頭なんだよ・・・ですから今夜の御籠りのことについてよ~く!お願いをしなさい!
どうも・・・あたくしは日本橋田所町日向屋 半兵衛の倅の時次郎と申します・・・今晩は三名にて御籠りに参りました・・・ 何卒一つよろしくお願いいたします・・・
(女将) はあ・・そうですか・・・ようこそおいで下さいました・・・ふっ・・・ うんん!・・・どうぞごっ・・・ふふっ・・・どうぞごゆっくりっ・・・お、御籠り下っふふっ・・・ ごほっごほっ!うん!御籠り下さいまし!何を笑ってるんだお前達っ・・ふふふ・・・ やだっ・・・うふふふ・・・あはは!ど、どうぞ!どうぞ!お手をお上げくださいまし!
本当にまあ・・・あっら~・・・綺麗な方じゃありませんかねえ~! まあこれじゃあお稲荷さんもお喜びになられますよ!?・・・ただいますぐでございますから!
 

茶屋の方でも現れちゃいけないと思うから支度をしてすぐに店の方へ送り込む・・・

 

その時分の大籬(おおまがき)、大店というものは本当に立派だったそうですな・・・

 

もう玄関なんざもう大変で間口が真に広い!入ってみるってと敷台なんざ綺麗に 拭き込まれてありまして・・・

 

お客様の顔が映ったりするそうですな!

 

白いはしごをとんとんとんと~ん!とあがりきるってと見通せないぐらいの長~い廊下になっている・・・

 

そこをご婦人が上草履なんてんで厚~い草履を履いてね、パタ~ン・・・パタ~ン・・・とこう歩いてくるわけですから・・・

 

これを見ればどんな堅物だってお稲荷さんじゃ ないことくらい分かりそうなもんですな・・・

 
 
・・・源平さん!!!!!
わっ!!どうしたんですか!?脅かしちゃいけませんよ!!
お稲荷様じゃありませんね!?
なんてことを言・・・お稲荷様ですよ!
いえ!お稲荷様じゃありません!!だって今いましたよ!?こんなんなった頭をした女の人が!! あれは何です!?
んん?いや~ここはあの~弁天様もやってる・・・
嘘ですよ!!嘘です!ここは𠮷原というところでございましょう? あたくしは書物で読んだことがございます!あたくしはお稲荷様へ御籠りになるというので 後をついてまいりました・・・こんなところへ来るつもりはないんでございますよ! 帰ります・・・悪いですけどお先に失礼させていただきます!!
いやいやいやちょっとお待ちなさいよ!ぼっちゃん!そんなこと言わないで! いいじゃありませんか!?あなた付き合いが大事だってそういったじゃないですか!? 付き合いなさい!!
付き合いなさい?あなた方あたしのことを騙したんじゃありませんか!! えぇ?冗談言っちゃいけませんよ!家ではこんなところに来てると思っちゃいないんですから!
ええ~・・・えへへへ・・・それがそうでないんですよ!そうでない!!
実はねえ、あなたのおとっつあんに頼まれてあなたを誘い出したんですから・・・
え?親父がですか?・・・親父はそういう親父ですから何を言い出すか分かりませんが、 親類中はみんな堅いんでございます!!
後で何を言われるか分かりませんから ここはひとつ御勘弁いただきたいと思います!あたくしはお先に・・・
ちょちょちょそんなこと言わないであなたぁ!よしなさいよぉ~せっかく ここまで来たんですから!お付き合いしなさいよ!ね?今に必ず困りますよ?
ねえ?そんな堅いことばかり言ってるってとね?なんだって知らないより知ってる方が いいじゃありませんか!!こういうところへ来てああこういうもんかなんて言うことが ありますことを自分で目の当たりにするってと、これが勉強になるってえやつですよ
冗談言っちゃあいけません!そんな勉強なんざしたくありません! とにかくあたしはこんな不浄なところへは一時たりともいたくはありませんから、 とにかくあたしは先に行きます!!
ちょいとちょいとしょうがねえなあ・・・ちょいともし!ねえ若旦那ぁ~ちょいと待ってください!
ね?お願いしますよ!この通りです!この通りですから!!機嫌を直して! 騙したのはあたくしです!どうもすいませんでした・・・どうかこの通り! お願いしますから・・・
(田助)どうもしょうがねえなあ・・・おい・・・
おい!おめえそんなところで笑ってねえでさあ!一緒に止めてくれりゃあいいじゃねえか!!
馬鹿だねぇ!今畜生は!わざわざ頭下げて言う必要はねえんだよ! 帰りてえって言うんだから帰ってもらえばいいじゃねえか!
お前せっかくここまで来たんだよ?・・・せっかくここまで来たんだから 止めてやってくれよ!
いいんだよ!帰してやりゃあいいじゃねえか!
ぼっちゃん!お帰えんなさいお帰えんさい! えぇ?あなた何にも知らねえからそんなことが言えるんだい! ねえ?知らねえってのは強えもんだ本当に・・・
本当にしょうがねえ・・・ぼっちゃんねえ?帰るのは結構ですよ? でもあんた𠮷原の法なんてもんを知らないから一人で帰るなんてそんなことが言えるんです・・・
ね?その法知ってりゃとてもじゃないが怖くて帰れませんよ・・・ そんなことがあるならなぜ教えてくれなかったって恨まれるのも嫌だからお話しますがね?
大門のとこから入ってきたらね?あそこからの一本道なんですよ・・・ 他からは出入りができない!で、大門の所に髭をはやした怖いおじさんが立ってたでしょう?
え?見なかった?ああそりゃあ見過ごしちゃったんだ・・・
そのおじさんはね?こっちの手に帳面をこっちの方の手に筆を持っててな? で、こうじ~っと見ている・・・どういうことをしているかって言うとね? ここにはね色んな奴が入ってくるんすよ・・・いつ何時どんな風体の男が!何人連れで 入ったあてえことをず~とこう帳面につけてる・・・
ね? 後はもうす~っと出てってご覧なさい・・・ちょいと待て!この男はさっき何時時分に 三人連れで入ってったじゃないか!それで一人で帰って行くのは真におかしい!! 貴様こっちへ来いってんで大門の所で止められますよ?
なあ!?
ふ~ん・・・そうだっけ?
の野郎!大門の所で三人で入って来て一人で帰ったら大門で止められるじゃねえか・・・
う~ん・・・そうかい?
この野郎・・・はははっは!!しょうがねえなあ・・・馬鹿野郎・・・ よく聞けよ!?
三人で入ってきた・・・一人で帰る・・・どこみてんだよ!? 俺の目を見ろ俺の目を!!バカ・・・三人で入って来て一人で帰るなんて大門で止められるだろ?
バァァカ!!
・・・・あああ~~!!!そうそうそう!!!止められますよ!! もう止められたら中々帰れませんよ?もうこないだなんか元禄時代から止められたのがいて・・・
馬鹿野郎おめえそんなことがあるかい・・・それでもよかったらぼっちゃん一人でも お先にお帰んなさい!お帰んなさい!
(若旦那)ひどいところでございます・・・あたくしそんな思いはしとうございません・・・ あのう・・・恐れ入りますが、ふたりでもって大門のところまで送って来ておくんなさいまし!
冗談言っちゃあいけませんよ!あたしたちは別に帰りたくねえんだ、あなた一人が 帰りてえんだから!今度はあなたの方からこっち付き合いなさい!
付き合いなさいって一体どういう・・・
だからさあ三人で一緒に帰るんだ・・・あなたの方が付き合いなさい!
付き合いなさいってあなた方・・・じゃあ一体いつ頃お帰りになるんですか!?
そうだねえ~しばらく来なかったからねぇ!まあひと月になるかふた月になるか・・・
冗談言っちゃあいけませんよ!!そ、それじゃああたしは帰れないよぉ~~ううう・・・
おいおいおい泣かしちゃだめだよ!本当に!しょうがねえなあ! そこでもって一杯やってどんちゃん騒ぎして、 でもってこの店に景気をつけてス~っと帰りましょうじゃありませんか・・ ね?そのくらいはあんた付き合って下さいよ!!
ぼっちゃん!あれは冗談!シャレですよ!んなことはありません!
けどね!こういう家は縁起商売でね?上がった客にすぐ帰られるってのは 縁起が悪くて嫌がられるんですよ・・・
だからね!こうしましょう! ここで座敷がありまして、酒魚が運ばれてきます・・・そこで芸者衆が・・・
いやいや大丈夫心配するこたねえ!何をしようというわけじゃありませんよ・・・ 賑やかしに来るんですから・・・
そうですか・・・それじゃあお付き合いいたします・・・飲むんでございますね? 飲むんでございますね?
じゃあ小さいもんではなくて何かどんぶり鉢かなんかで・・・
そんなもんで飲みはしませんよ!!大丈夫です!大丈夫でございますよ!
 

 

ってんで座敷が変わります・・・

 

酒、魚が運ばれてくる、しばらく経つってと横丁芸者と申しまして、海に千年、山に千年、里に千年、甲羅に三千年の甲羅を経たという腕達者な芸者衆が繰り込んできます・・・

 

こんばんは~!!!なんてんで黄色い声を出します・・・

 

もうこんな芸者衆が入ってくるってとどんな陰気な奴でも一気に陽気になったそうでございますな・・・

 

それがちっともねえ・・・

 

陽気にならないで・・・

 

 

(田助)もういい・・・もうもう・・・いいから・・・休むよ・・・飲んでたってうまくもなんともねえんだから・・・
ええ?なんだよ?駄々っ子上向いてべそかいてやがんだから・・・ね
し~んとしちゃってさあ・・・通夜じゃねえんだから・・・
おい!おめえが・・・おめえが連れて来たんだよ!?なんとかしねえな!
(源平)しようと思ったよ?しようと思ったけどおばさんがね?うぶでいい!!なんて言うからさあ・・・ 任しといてくださいよってそういったきりなんだから・・・
こっちはおばさんが来るのを待ってんですから!・・・分かったよ!
・・ぼっちゃん!!そんなところで一人で離れてねえ、向こう向いてるなんてなんですよあんた!よそよそしいよ!!ねえこっちへ来てみなさんと一緒に お話でもしたらどうですか?
結構でございます!!!
う・・・取り付く暇がねえんだよ・・・結構ってんだからねえ・・・結構ってものを無理ってもんをこっちへ・・・
そう・・・分かったよぉ・・・ あのねえぼっちゃん!・・・あ、おばさん(女将)来た・・・何してたんだよ!!
どうも遅くなりましてあいすいません・・
遅いよぉ!!早く~早くさぁ~待ってますよぉ!!
どうも若旦那遅くなりまして申し訳ございません・・・さあ!あちらへ参りましょう? ね?あちらへ!準備が・・・
いえ!結構でございます!どうぞお構いなく!
いえあなたがここにいるってとね、源平さんと田助さんがね?意地の悪い方ですからね? もういつまでもゆっくりとお酒を飲んでますよ?さっあちらへ参りましょう?
いやです!止めてください!女郎買うってと瘡を掻きますよ(皮膚病にかかる)!
(源平)・・・ああ嫌なことを言うねえ!!もうみんなで手伝って向こうやっちまえ!!
(女将)さあ!!若旦那あちらへ参りましょう!!
ちょちょちょなんですか!?あなた方!え?いい歳してこんなくだらないことをして 何が面白いんですか!!人が嫌がることを無理に進めて!! あなた方他にやるべきことはないんでございますか!?
二宮金次郎という人は!!
(源平)しょうがねえなあおい・・
(女将)さっ!若旦那!
や・・止めてください!何をするんです!?手を離してください!
手を!離せ・・離さないか!!!
・・・離してください・・・お願いですから!お願いですから離してください!
さあ若旦那!!
ちょ!押しちゃいけません!!源平さん、田助さん!何とかしてください!お願いします!
助けて~~~!!おっかさ~~~~ん!!
 

 

ってんで、こんなところでもっておっかさんなんて言ったってしょうがないですな・・・

 

そこは持ち家は持ち家でもってうまい具合に納めてしまう・・・

 

『大一座でふられた奴が起こし番』なんてことを言いまして、 ああいうところへ行って友達の所へ何か首突っ込んでるもんに モテたためしはないそうですな・・・

 
 
(源平)おはよう!おはよう!!
(田助)ん・・・おはよう・・・本当にもう・・・よしなよ?悪いことは言わない
ああいうね・・・あれは少し堅すぎるよ?堅すぎんの!!
ね?堅いのはいんだよ?少しぐらい堅いほうが可愛げがあって・・・
あれは可愛げがないよ!あそこまで堅いと憎たらしいね・・・イライラすんだよ・・・ ね?第一ね?もぐもぐ・・・人をねえ・・・もぐもぐ・・・あだしていけませんよ・・・
ねえ?何が?ってそうじゃねえか・・・嫌なこと言ったろ?
女郎買うってと瘡を掻くって・・・あれがきいちゃったよ?
あとで御引けになって二人きりになったってさこっちがそばへ寄ってくってとこういうんだもん・・・
およしなさいましよ!女郎買うってと瘡搔きますよ!
馬鹿なお冠(怒っていること)だよ!!大しくじり!本当に弱ったねあいつあ・・・ やけになってこっちは飲むだけ飲んじゃったよ・・・しょうがないよ・・・
今ね?おばさんにな?梅干しもらってちょうどいいよ?
・・・もうね・・・お前さん物好きだけどもよした方がいいよあれは・・・
で、どうしたの?あいつは?
え?・・泊まっ・・・た?御籠りになった?本当かい?一人でだろ
・・・相手と一緒!?何ぃ!?
痛い痛い・・・痛いよぉ耳引っ張るんじゃねえよ!
冗談じゃねえ!面がみてえなあ!!
そうだよ!だから誘いに来たんだよぉ!
こっちへおいでこっちへおいでこの座敷だよ・・・
怒っちゃいけないよ?あんまり!乱暴なことしちゃいけないよ?
うん・・・おはようございま~す!!いいねえ大店というのは・・・座敷に入ってすぐに寝床が見えない・・・これが醍醐味だよ!大店の・・・
ええ・・・ごめん下さい!ぼっちゃん?おはようございます・・・
枕元に屏風を立てまわして寝てるよ・・・へへっ、どうもねえ・・・
ぼっちゃん?源平に田助がお迎えに上がりましたよ?さあぼっちゃん!
ぼっちゃん?
お返事がありませんか?返事がないってとこっちで勝手に屏風外させていただきますよ?
どうも・・・失礼を・・・
おっ?あっはははは!!真っ赤になってさあ潜っちゃったよ布団に!!
ぼっちゃん?ぼっちゃん?いかがでございますか?御籠りは?
はい・・・大変に結構な御籠りでございました・・・
ああそうですか!!結構だったと!!ねえ馬鹿にはまっちゃったよ!?またちょくちょく参りましょ?花魁ね?可愛いでしょ?いい子なんだよぉ・・・
それじゃあね、起きてください!あのお送りいたしますからお宅へ・・・そこまであたくしの役目ですから!さあ起きて!ひとつ手伝って!手伝って!
さあ若旦那?起きなんし・・・起きなんし・・・起きなんし!
ぼっちゃん!!あんたぁねえ!花魁が起きろ起きろって言ってんだから起きりゃあいいでしょ?
・・・お、花魁は口じゃあ起きろ起きろって言ってますけど・・足で私の体をぎゅっと抑えてんですよ・・苦しくって!
聞いたか?
聞いたよぉ!・・・何で昨夜からそういう料簡になんだよぉ!!
二宮金次郎が無駄じゃねえか馬鹿!!
昨夜のうちからそういうことになってたなんて・・・ううううう・・・
おいおい泣くこたあねえじゃねえか!
俺ぁ先帰るぅぅぅぅぅぅ・・・
おいちょっと一緒に帰るよ!弱っちゃったねぇどうも・・・
じゃあぼっちゃん?あんた暇な体なんだゆっくりしてくださいね?あたしら行くところがあるから、先帰りますよ!?
あんた方先帰れるものなら帰ってごらんなさい・・
大門で止められます・・・
 
 
 
終わり
 
 
 

 明烏を聞いて

 

まずはオチの確認についてですが、『大門で止められる』というのは、源平と田助が若旦那を帰らせないために吉原の法だと言った嘘です。

 

それを若旦那が本当のことだと信じているので、今帰ろうとしてもあなた方は大門で止められてしまいますよと言うのがオチになっています。

 

今はどうか分かりませんが、昔はちょっと悪いおじさんや上司が若い人をそういったお店に半ば強引に連れて行ったという話を聞きます。

 

でも現代の若者はどちらかと言えばそういうことには無関心というか、『興味はあるけど、興味がある!と言葉や行動に出すのが恥ずかしい』という傾向が見られます。

 

ですから、上司に誘われても『いや、自分そういうのいいんで!』とさめていたりします。

 

でもきっと明烏に出てくる若旦那のように、一回行ってしまえば慣れて逆にはまりそうですね。(勝手な偏見ですが)

 

 この後、若旦那はどうなったんでしょうか?お父さんの希望通り、少しは真面目さが抜け遊べるような人間になれたんでしょうか?

 

その後を自分で考えるのも落語の楽しさでもありますね。

 

 
 

明烏を聞きたい方へ

 

 

明烏

明烏

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